EBPMとは何か
EBPM(Evidence-Based Policy Making)とは、政策の企画をその場の思い付きやエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づいて政策を立案する取り組みである。
日本政府は2017年から全府省庁でEBPMの推進に取り組んでいる。内閣官房に「EBPM推進委員会」が設置され、各府省庁に政策立案総括審議官が配置された。行政事業レビューにおいてもロジックモデルを用いた政策効果の検証が求められるようになっている。
多文化共生分野でも、自治体が策定する推進計画にKPI(重要業績評価指標)を設定し、達成状況を検証する動きが広がっている。
ロジックモデルの基本構造
ロジックモデルは、ある施策が最終的な成果を生み出すまでの論理的なつながりを可視化するツールである(W.K. Kellogg Foundation, 2004を参考に構成)。基本構造は以下の5段階で構成される。
・インプット(投入):予算・人員・設備など、施策に投入する資源
・アクティビティ(活動):投入した資源で行う具体的な活動
・アウトプット(結果):活動の直接的な産出物(研修回数、相談対応件数など)
・アウトカム(成果):活動の結果として生じる変化(問題解決率、満足度向上など)
・インパクト(影響):施策が社会全体にもたらす中長期的な影響
【多文化共生分野の具体例】(外国人相談窓口の設置)
・インプット:交付金予算、相談員2名、通訳タブレット
・アクティビティ:週5日の窓口運営、多言語での情報発信
・アウトプット:年間相談対応件数、対応言語数
・アウトカム:相談者の問題解決率、行政サービスへの接続率
・インパクト:外国人住民の生活満足度向上、地域社会への参画促進
ロジックモデルは作成すること自体が成果を保証するものではない。重要なのは、モデルに基づいてデータを収集し、仮説を検証するサイクルを回すことである。
多文化共生分野でのKPI設計
多文化共生分野のKPIは、施策の性質に応じた指標の選択が必要である。
【アウトプット指標の例】
・多言語対応窓口の設置数
・やさしい日本語研修の実施回数
・相談対応件数
・多言語情報の発行部数
【アウトカム指標の例】
・外国人住民の行政サービス認知度
・相談窓口の利用者満足度
・外国人の子どもの進学率
・地域活動への外国人住民の参画率
実務上の課題はアウトカム指標の測定である。アウトプット(相談件数等)は集計しやすいが、アウトカム(問題が解決したか、生活の質が向上したか)の把握には外国人住民への調査が必要で、言語の壁もあって実施のハードルが高い。
現実的なアプローチとして、アウトプット指標を中心に据えつつ、計画期間中に1〜2回の住民意識調査を実施してアウトカムを把握する手法が多くの自治体で採用されている。
行政事業レビューとの関係
行政事業レビューは、各府省庁が予算事業を毎年度自ら点検する仕組みである。国の多文化共生関連事業(外国人受入環境整備交付金、日本語教育関連事業等)もこのレビューの対象となる。
レビューではロジックモデルの作成が求められ、事業の目的・手段・成果指標の論理的つながりが外部有識者を含む会議で検証される。このプロセスを通じて事業の効率性・有効性の改善が図られる。
自治体レベルでも各自治体の行政評価制度を通じて多文化共生施策の評価が行われている。ただし評価手法のばらつきが大きく、自治体間の横比較が難しい状況にある。