「秩序ある共生」とは何か
2026年1月23日、「外国人の受入れ・秩序ある共生社会実現に関する関係閣僚会議」において「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」が決定された。2018年以来毎年改定されてきた「総合的対応策」を全面改定した、関係閣僚会議が決定した日本の外国人政策に関する政府全体の総合方針文書である。
従来の指針は「共生」を基調としてきた。本対応策は「秩序は社会の土台、多様性は社会の力」を基本理念に掲げ、初めて「秩序」を冠した。ルールを守る外国人が正当に評価される社会を目指す方針を明示している。
推進体制も強化された。2025年10月、「外国人との秩序ある共生社会推進担当」の大臣ポストが新設され、関係閣僚会議も名称・構成を改めて再編された。内閣官房には「外国人との秩序ある共生社会推進室」が設置されている。外国人政策の分野で担当大臣が設置されたのは初めてである。
主要施策(POLARISによる4区分の整理)
【この4区分はPOLARISによる整理である。】対応策の本文は政府がこの4本柱で構成すると述べているわけではない。内閣官房の詳細解説は「出入国管理」「在留管理」「受入れ」「外国人が利用する制度」「国土利用・管理」の5区分で示されている。以下は個々の施策を実務の観点から読みやすく並べ直したものであり、政府の正式な体系ではない。
管理の厳格化と支援の拡充を一体で進める設計であり、2026年から2028年にかけて順次施行される。
【第1の柱:出入国管理のDX推進】
入国前から在留中まで、デジタル基盤を整備する。
・特定在留カード等:在留カードとマイナンバーカードを一体化した新カード。2026年6月14日に運用開始。取得は任意で、従来の2枚持ちも引き続き可能
・JESTA:ビザ免除74カ国・地域の短期滞在者向け電子渡航認証制度。2028年度中に導入予定。入国前にオンラインで事前審査を行い、認証なしには搭乗できない
【第2の柱:在留資格の厳格化】
在留資格ごとに審査基準を見直す。永住者の公的義務(税・社会保険料)の履行状況を在留審査で確認する仕組みが導入される。留学生の資格外活動(アルバイト)についてはマイナンバーの所得情報を活用した調査が実施される。
在留資格の変更許可等に係る手数料の「上限額」の引上げを定めた入管法等改正法は、2026年3月10日の閣議決定を経て第221回特別国会に提出され、同年5月29日に成立、6月5日に公布された(令和8年法律第32号)。法律が引き上げたのは法定の上限額である。
・永住許可:上限1万円 → 30万円
・在留資格変更・更新:上限1万円 → 10万円
実際に徴収する額を定める政令(改正入管法施行令)はすでに定まっており、出入国在留管理庁が2026年8月28日に改定内容を公表した。改正入管法施行令は2026年(令和8年)10月1日に施行され、同日以後に申請して許可を受ける者から改定後の額が適用される。2026年9月30日までに受け付けた申請は、許可が10月1日以降になっても改定前の額である。
【改定前】在留資格変更・在留期間更新:窓口6,000円/オンライン5,500円。永住許可:窓口10,000円。
【改定後(2026年10月1日〜)】在留資格変更・在留期間更新は、許可を受ける在留期間の区分に応じて額が変わる(改正入管法施行令第25条第1項)。窓口/オンラインの順に、3月以下 10,000円/10,000円、3月超6月以下 18,000円/15,000円、6月超1年未満 25,000円/21,000円、1年 33,000円/27,000円、1年超3年未満 48,000円/42,000円、3年以上5年未満 64,000円/56,000円、5年以上 75,000円/65,000円。永住許可は窓口200,000円。
【減免】改正後の入管法第67条第3項に基づき、政令で定める者は減額・免除の対象となる。減額後の額は在留資格変更1万円・在留期間更新1万円・永住許可2万円。減額の対象となり得るのは、生活保護法に規定する要保護者に準ずる程度に困窮していると認められ、人道上の配慮を要する者(永住許可では日本人・永住者・特別永住者の配偶者又は子等に限られる)。免除の対象は外交・公用の在留資格への変更や、公用の在留資格での更新等である。オンライン申請は減額措置に対応していないため、疎明資料を提出する場合は窓口で申請する必要がある。
【納付方法】オンライン申請分は2026年10月1日以降、収入印紙による納付ができなくなり、コンビニ決済または銀行決済となる(別途、指定委託事業者への決済手数料がかかる)。窓口申請は従来どおり収入印紙である。
【第3の柱:社会保障・税制度の適正化】
不正利用を防ぎ、制度の公平性を確保する。
【第4の柱:受入れ環境の整備】
外国人が日本社会に適応するための支援を国主導で整備する。日本語・社会規範の学習プログラムを創設し、受講状況を在留審査の考慮要素とすることも検討されている。外国人受入環境整備交付金の拡充によるアウトリーチ(訪問支援)事業も盛り込まれている。
従来の「共生」路線との違い
本対応策は「秩序」と「共生」を対立概念ではなく相互補完と位置づけている。共生に向けた取組を継続しつつ、秩序・適正化の観点をより明確に加えた展開といえる。
2022年の「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」(関係閣僚会議決定)は「外国人も社会の一員」という理念を前面に出し、支援の量的拡大に重点を置いていた。
一方、本対応策は管理・取締りの強化を柱の一つとして明示している。
・退去強制確定者を2030年末までに半減する数値目標の設定
・護送官付き国費送還を2027年までに2024年実績(249人)から倍増
・在留資格「経営・管理」「技術・人文知識・国際業務」等の審査厳格化
同時に、日本語教育の充実やアウトリーチ事業など支援施策も継続・拡充されている。管理強化と支援整備は二者択一ではなく、一体で進める設計である。
自治体の対応も動き始めている。報道機関の調査(共同通信・2026年3月。一次資料である公的統計ではない)では、35都道県が2026年度当初予算に外国人との共生に向けた新規・拡充事業を盛り込んだとされる。既存の多文化共生推進計画と本対応策の方向性をどう整合させるかが、各自治体の当面の課題となる。
従来の「共生」路線との比較
| 従来の「共生」路線 | 「秩序ある共生」路線 |
|---|
| 基本理念 | 外国人も社会の一員 | 秩序は社会の土台、多様性は社会の力 |
| 重点 | 支援の量的拡大 | 管理強化と支援整備の一体推進 |
| 推進体制 | 関係閣僚会議(兼務大臣) | 担当大臣を新設 |
| 在留管理 | 既存制度の運用改善 | DX基盤の構築(特定在留カード・JESTA) |
| 退去強制 | 個別対応 | 退去確定者の半減目標を設定 |
| 手数料 | 長期間据え置き | 法定上限を引上げ。実額も2026年10月1日から在留期間別に改定 |
主要スケジュール
関連する施行・実施が2026年から2030年にかけて集中している。自治体・受入企業・支援機関は、自らに関わる項目の対応時期を早期に確認する必要がある。
施行スケジュール
2026
5月29日入管法等改正法(JESTA創設・在留手数料の上限額引上げ)が第221回特別国会で成立
6月5日同法を公布(令和8年法律第32号)。JESTA創設に関する改正規定は令和11年3月31日までの間において政令で定める日に施行
8月28日出入国在留管理庁が在留許可手数料の改定内容(改正入管法施行令)を公表
10月1日改正入管法施行令が施行。在留資格変更・在留期間更新の手数料が在留期間の区分に応じた額(窓口10,000〜75,000円)に、永住許可が窓口200,000円に改定。オンライン申請分は収入印紙からコンビニ・銀行決済へ
6月14日特定在留カード等(在留カード+マイナンバー一体化)運用開始
2027
護送官付き国費送還を2024年実績(249人)から倍増
実務者が注視すべきポイント
本対応策は国の指針であり、実務への影響は施行令・省令・通知を通じて具体化される。現時点で注視すべきポイントを立場別に整理する。
【自治体担当者】
既存の多文化共生推進計画・指針が「秩序ある共生」の方向性と整合するか、点検が必要になる。特定在留カードの運用開始に伴う窓口業務の変更、育成就労制度の転籍に伴う相談ニーズの増加にも備える必要がある。
【受入企業・監理団体】
在留資格審査の厳格化は雇用管理に直接影響する。外国人従業員の社会保険加入の徹底や、在留期間更新に必要な書類の変化への対応が求められる。
【支援機関・相談窓口】
永住許可の手数料上限引き上げに関する相談の増加が見込まれる。在留資格更新時の必要書類の変更など、具体的な問い合わせへの対応準備が求められる。
POLARISでは、本対応策に関連する一次資料を「政策・制度」の一次資料一覧に収録しています。