制度の背景と目的
技能実習制度は1993年の創設以来、「開発途上国への技術移転」を建前としてきた。しかし実態は労働力確保の手段として機能しており、その乖離が構造的な問題を生んでいた。
実習生の失踪者数は2018年に年間9,052人に達し(出入国在留管理庁統計)、賃金未払い・暴行・パスポート取上げなどの人権侵害が国内外から批判を受けた。
2022年11月、政府の有識者会議として「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」(座長:田中明彦JICA理事長)が設置された。2023年11月の最終報告書は、技能実習制度を「発展的に解消」し、人材確保と人材育成を正面から目的に掲げる新制度の創設を提言した(出入国在留管理庁, 2023)。
提言を受けて2024年の通常国会で改正法(令和6年法律第60号)が成立し、「育成就労制度」の創設が決定した。
技能実習制度からの主な変更点
主な変更点は以下の5つである。
【制度目的の転換】「技術移転」から「人材確保と人材育成」へ。外国人が日本でキャリアアップする道筋が制度上明確になった。
【転籍(転職)の解禁】一定の要件を満たせば、本人の意向で受入機関を変える転籍が可能になる。転籍先は同一の業務区分内に限られる(業務区分は育成就労産業分野の中をさらに分けた単位で、たとえば工業製品製造業は17業務区分、鉄道は6業務区分)。要件は、同じ受入機関で分野ごとの転籍制限期間(1年または2年)を超えて就労していること、技能検定基礎級等の合格と分野別に定める日本語能力水準を満たすこと、民間の職業紹介事業者による職業紹介等を受けていないこと、転籍先が優良な育成就労実施者であること、転籍先の育成就労外国人に占める本人意向の転籍者が一定の割合以内であること、転籍先が転籍元に受入れの初期費用として一定額を支払うことである(入管庁「育成就労制度Q&A」Q48。2026年10月9日に原文を確認)。本人意向による転籍時の日本語能力水準は分野ごとに設定されており、入管庁「育成就労制度の概要(令和8年7月改訂)」の人材基準表では多くの分野がA2.1相当以上、介護と鉄道の運輸係員はA2.2相当以上である。自動車運送業と航空には育成就労産業分野の設定がなく、同表の「A2.2相当以上(トラック)・B1以上(バス・タクシー)」は特定技能1号の水準で、育成就労の転籍要件ではない(2026年10月8日に原文の表で確認・訂正)。A1相当以上は多くの分野の1年経過時の水準であり、転籍要件そのものではない。暴力やハラスメントなどの人権侵害を受けた場合等、やむを得ない事情がある場合の転籍は技能実習制度から引き続き認められ、この場合も転籍先は同一の業務区分内に限られる。
【監理支援機関への再編】監理団体は「監理支援機関」に移行する。外部監査の義務化、受入企業との密接な関係(役員兼任等)の制限など、独立性と透明性の確保が求められる。
【日本語能力要件の新設】入国時の日本語要件はなく、就労開始前までにA1相当以上の試験(JFT-Basic、JLPT N5等)に合格するか、認定日本語教育機関の「就労」課程のA1相当講習を100時間以上受講することが求められる。就労開始1年経過時の水準は多くの分野でA1相当以上であり(介護と鉄道の運輸係員はより高い水準)、育成就労の開始から1年以内に試験を受けることが求められる。本人の意向による転籍を行う場合は、これより高い分野別の水準(多くの分野でA2.1相当以上)が求められる。育成就労終了時=特定技能1号への移行時(就労開始後約3年)はA2.2相当以上の試験の合格が要件となる(鉄道の運輸係員はB1相当以上)。受入企業(育成就労実施者)には、育成就労の3年間にA2目標講習を100時間以上受けられる機会を提供する義務がある。施行後当分の間は、一定の要件を満たす登録日本語教員の講習も認められる。出典: 入管庁「育成就労制度の概要(令和8年7月改訂)」分野別表、「育成就労制度Q&A」Q56・Q63・Q64(2026年10月9日に原文を確認)。
【特定技能1号への移行が基本経路】原則3年間の育成就労を経て、技能に係る試験(技能検定試験3級等または特定技能1号評価試験)と日本語能力A2.2相当以上の試験(JLPT N4等)に合格し、特定技能1号に移行する設計である。技能実習2号の良好修了者に認められている試験の免除は、育成就労にはない。試験に不合格となった場合は、最長1年の範囲内で一定の在留継続が認められる可能性がある(同Q&A Q11・Q75)。
技能実習 vs 育成就労
| 技能実習 | 育成就労 |
|---|
| 目的 | 技術移転(国際貢献) | 人材確保と人材育成 |
| 期間 | 最長5年 | 原則3年(特定技能1号への移行に必要な試験に不合格の場合、最長1年の在留継続あり) |
| 転籍 | 原則不可 | 条件付きで可能 |
| 日本語要件 | なし(努力義務) | 就労開始前までにA1相当(試験合格または講習100時間以上)/1年以内に分野別の試験/特定技能1号への移行時にA2.2相当以上の試験(N4等)に合格 |
| 監理 | 監理団体 | 監理支援機関(基準厳格化) |
| 次の在留資格 | 特定技能1号(技能実習2号の良好修了者は技能・日本語の試験を免除) | 特定技能1号(技能・日本語の試験の合格が必要) |
施行スケジュール
施行日は2027年4月1日である。主なマイルストーンは以下のとおり。
・2026年2月20日:育成就労制度運用要領の公表(済)
・2026年4月15日:監理支援機関の許可申請受付開始(施行日前申請)
・2026年9月1日:育成就労計画の認定申請受付開始(施行日前申請)
・2026年9月9日:分野別運用方針の改正に向けた作業開始(現行は2026年1月23日閣議決定分)を有識者会議(第14回)で報告。技能評価試験の整備予定や特定技能「外食業」分野の受入上限超過への対応も議題に上がった。改正後の人数・分野・施行日は未定
・2027年3月31日:技能実習計画の認定申請の期限(経過措置の入口)。この日までに技能実習計画の認定の申請がなされ、施行日から3か月を経過するまで(2027年6月30日まで)に技能実習を開始する技能実習生は、原則として引き続き認定計画に基づいて技能実習を続けられる(出入国在留管理庁「育成就労制度Q&A」Q31・Q47。2026年10月2日に原文を確認)
・2027年4月1日:育成就労制度の施行
・経過措置:施行日時点で在留する技能実習生は認定済みの技能実習計画に基づき在留を継続できる(技能実習3号への移行は、施行日時点で技能実習2号在留かつ2027年4月1日時点で2号の活動を1年以上行っていることが条件)。終期を示す記載は入管庁Q&Aに確認できていない
「施行日前申請」とは、施行日より前に新制度の申請を受け付ける仕組みである。施行初日から円滑に運用を開始するための移行措置として設けられた。
受入れ規模と対象17分野
政府は育成就労制度の受入れ見込数として約42.6万人を設定している。育成就労は2027年4月の制度開始から2028年度末までが対象期間であり、特定技能1号(2024年4月〜2028年度末の5年間・約80.6万人)とは対象期間が異なる。両者の合計は約123万人(政府方針)であり、外国人労働者の受入れ規模は過去最大となる。
対象となる産業分野は以下の17分野である。
・介護
・ビルクリーニング
・工業製品製造業
・建設
・造船・舶用工業
・自動車整備
・宿泊
・農業
・漁業
・飲食料品製造業
・外食業
・鉄道
・林業
・木材産業
・リネンサプライ
・物流倉庫
・資源循環
これは特定技能制度の19分野から、制度の性質上なじまない航空・自動車運送業の2分野を除いた構成である。育成就労(3年)から特定技能1号(5年)への移行が基本設計であり、分野ごとに転籍制限期間(1年または2年)・受入上限数・技能評価試験の内容が異なるため、受入企業は自社の分野の運用方針を確認する必要がある。
関係者別の影響
【受入企業】転籍が認められるため、労働条件・職場環境の改善が人材定着に直結する。育成就労計画の作成義務と日本語学習支援の提供が求められる。「選ばれる企業」への転換が必要になる。
【監理団体(→監理支援機関)】許可基準が厳格化され、新基準への適合が必要である。外部監査の義務化、常勤役職員の配置基準などが追加される。許可するのは主務大臣で、施行日前申請は2026年4月15日から外国人技能実習機構で受け付けている。
【自治体】転籍に伴う外国人住民の地域間移動が生じるため、転入時の相談対応と生活定着支援の体制強化が課題となる。
【本人(外国人材)】転籍の権利が付与される一方、日本語能力要件を満たす必要がある。就労開始前までにA1相当(試験合格または講習)を満たすための日本語学習と、在留中のキャリアパスの計画が重要になる。
今準備すべきこと
育成就労制度の施行(2027年4月1日)まで約5か月です。受入企業は育成就労計画の策定と日本語学習支援体制の構築、監理団体は監理支援機関への許可申請準備、自治体は転籍に伴う相談ニーズ増加への窓口体制の検討が必要です。
受入企業は厚生労働省の「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」を活用して、就労環境の整備費用の一部を補助できる場合があります。詳細は厚生労働省のWebサイトをご確認ください。
POLARISの「育成就労ナビ」では、役割別(受入企業・監理支援機関・自治体)の制度解説、FAQ、施行前チェックリストを提供しています。チェックリストの進捗はブラウザに保存され、準備状況の管理にご活用いただけます。